しまずあいみのぽんこつ日誌

~アラフォーになったのでタイトル変えました~

読書感想『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』

作家・アルテイシアさんの著書『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』の読後感想を書きたいと思う。 

 

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はじめにこの本は、アルテイシアさんの連載コラム「59番目のマリアージュ」「アルテイシアの59番目の結婚生活」が加筆修正されたものだ。 

出来ることなら1万冊ほど購入して、『すこやかアラサー&アラフォー文庫』重要参考図書として、全国津々浦々で配ってまわりたいほどお勧めである。

 

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「転ばぬ先の杖」的 参考文献だと思う。

特に下記に思い当たる人は、読んだら少しラクになるんじゃないだろうか。

 

 ・短命な恋愛を繰り返し、血反吐を吐いている人

・周囲から結婚について「高望みするな、妥協するべき」などと急かされ、「心から好きだと思える人と結婚したいと思う自分がいけないのか」と悩んでいる人

・だめんずと付き合う(付き合っていた)自分を責めてしまい、苦しい人

・「結婚生活ってそんなに良いものなの?」と感じている人(それでもなんとなくパートナーは欲しい人)

・「いつまでも親を恨むのは幼稚だ」「親子は分かり合える」と言うような、巷に溢れる『毒親ポルノ』に傷ついている人

・男尊女卑社会にひそかに怒っている、傷ついている人

・なんとなく生きづらさを感じ、生きやすくなりたいと思っている人 

 

本書のタイトルを一見すると「夫婦生活についてのノウハウ本かな?」と見紛うかもしれない。

 しかし実際は、「恋愛と親子関係で血ヘドを吐き尽くした独身時代」「40歳で迎えた子宮摘出手術」「セックスレス」「長年音信不通であった両親の突然死」「毒親ポルノや男尊女卑社会への怒りや撃退法」「女の友情」「父親が残した借金の話」…と『婦人公論』並に、女の人生てんこ盛りの内容だ。

ちなみにこの内容に、さらに鈴木宗男氏との夢小説が出てくるカオスさ、想像できるだろうか。 

修羅場なのに笑える不思議

 

この本がすごいのは「毒親の死」など人生の修羅場を描写していながらも、説教臭さや辛気臭さを一切感じさせないことだ。
アルテイシアさん夫婦の卓越したユーモアで、笑えないはずの話が楽しく読めてしまう。

 

特に「夫」さんが繰り出す、マニアックで斜め上からの発言は「さすがオタクの中のオタクや…」と敬意を表さずにはいられない。

 

 

夫さんは、幼い頃に父親が愛人を作って家を出て行き、養育費も払われた事がないという生い立ちだそうだ。

しかし夫さんは不思議なほど暗さを感じさせず、突き抜けている。

 

 「父親に捨てられた的な心の傷はないの?」というアルテイシアさんの問いかけに対し、「全然。キン肉マンなんて豚と間違われて宇宙船から捨てられたんだぞ」とマジレスする夫さん。そんなタフさを、本書の随所で垣間見ることができる。

 

 幼少期から恐竜・昆虫・超常現象・忍者・宇宙人・格闘技などの分野に精通してきた夫さんは、人間や社会への眼差しが非常に独特だ。

そしてアルテイシアさんは、そんな夫さんのユニークさをありのまま愛している。

そんな夫婦の会話だから、本来ノロケに聞こえるはずの話で腹抱えて笑ってしまうのだ。

 

恋愛で自分を責めてしまう人に

 

そして、本書はとにかく優しい。

冒頭で「自分を責めてしまいがちな人、傷ついている人にぜひ読んでもらいたい」と書いたのは、アルテイシアさんの言葉がとにかく救いになるからである。

 

 例えば下記は「17 だめんず沼から脱出するために、心にジョセフを飼おう」という章の一部抜粋である。 

 

「相手を信じて付き合って、結果的に傷つけられる。そのうえ周りから「男を見る目がない」「なんであんな奴に騙されるんだ」と言われて、ますます傷ついて自信を失う女子は多い」
本人が一番「だめんずにハマる自分はダメだ」と自分を責めて苦しんでいる。けれども、だめんずにハマる女子はダメじゃない。そもそも悪い奴は悪い奴に騙されない。騙されるのは彼女らが正直者のいい子だからだ。
そんな女子たちに伝えたい。悪いのはあなたじゃない。悪い男が、女の長所に漬け込むのだ。
ただでさえ、だめんずと付き合うと自尊心を削られて、欠点に目を向けがちになる。そこで「自分の何がダメなんだろう?」とダメを探すんじゃなく、「長所につけこまれているのでは?」と視点を変えてほしい。

 

以前twitterでも呟いたのだけど、心理統計学を専門としている方から「人は短所より長所で失敗する」と聞いたことがある。恋愛に限らず、人は長所で躓きやすいものらしい。

 

 

昨今の恋愛コラムには「それが出来たら苦労しませんわい」と感じるノウハウや、「だからわたしはダメなんですよね…そうですよね…」と、読みながら自分の傷口に粗塩をズリズリ塗り込んでしまうような論調のものも多い。

 

 確かに、それが最大公約数的な正解であり、幸せの近道なのかも知れない。
しかしそのようなコラムを読む時は、ただでさえ心がゲボゲボに傷ついている時だ。「恋愛は片方だけが悪いという話じゃない」とも聞くけれど、そんなこたぁ後回しで良いじゃないか。まずはアルテイシアさんの文章で癒されて欲しい。反省は、元気な時にすれば良いのだ。 

 

親子関係に悩む人に

 

親子関係に悩む人にとって、「23 毒親ハックライフと毒親ポルノ撃退法」の章は、救いになるんじゃないだろうか。

 

 毒親ポルノとは、世の中に蔓延する「親子はいつか必ず分かり合える」的な、毒親に苦しめられた当人を置き去りにするような言説に基づいた作品のことである。

アルテイシアさんはそれらを「毒親の呪いに苦しむ人間にとって、きわめて有害なコンテンツ」であると一蹴する。 

 

本書を読んで省みるに、以前のわたしは毒親ポルノに汚染され、それを撒き散らすひとりだったように思う。

わたしの親もかなり変わった人なので、わたし自身も親子関係には苦労したが、うちの母は特に妹に対しての執着が強かった。妹にとっては紛れもない「毒親」だと思う。 

 

そんな母親と衝突しがちな妹に対して「お母さんは病気なんだから、少し我慢して」と妹に我慢を強いるような発言をした記憶がある。

 当時妹の味方で居なかったことに、今も夢に見るほど後悔している。妹にとっては現実こそ悪夢で、味方のいない地獄のような家庭だったと思う。 

 

数年前、わたしが「親は憎んで良いのだ」と気付けたのは、アルテイシアさんの著書やコラムを通してだった。
それから田房永子さんや二村ヒトシさんの本を読むようになり、妹の苦しみや自分自身の欺瞞や心の穴に気づいた。もっと早く気付いていればと何度も思った。

 

だから毒親に苦しんだ本人でなくとも、ぜひこの本を読んで欲しいと思う。
今後毒親に悩む人と接する機会があれば、適切な距離感で寄り添う事ができるようになると思うから。 

 

「そのまま」を受け入れ合う幸せ

 

アルテイシアさんが、夫さんや気心知れたご友人たちと「そのままの自分」を受け入れ合って楽しく生きている様を見ると、「こうありたい」と強く思わされる。 

 

今の自由で伸びやかなアルテイシアさんからは想像もできないけれど、曰く20代の頃は「バカ恋愛をしすぎて、精神が応仁の乱レベルに荒廃していた」そうだ。

「毒親育ちでメン(タル)が不安定な自分が嫌い」だったそうで、それが理由で当時の恋人に振られたりすると、「こんな自分を変えないと幸せになれない」と自分を責めていたという。

 

 そんなアルテイシアさんに旦那さんは出会った当初、「いろいろ大変なことがあったんだから、不安定になって当然だろう。べつに変わらなくていいんじゃないか」と言ったそうだ。懐の深さが尋常じゃない。 

 

アルテイシアさんはそんな旦那さんのことを「アナルガバ夫」と呼んでおり、男の価値はアナルの大きさで決まると提唱している。アルテイシアさんの「アナル論」は、パートナー選びに非常に参考になるので、まだの方はぜひ読んで貰いたい。 

 

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親は選べないし、過去は変えられない。でも「なぜ自分に生まれてきてしまったのだ」「自分を変えなきゃ」と思いながら生きていくのは辛すぎる。 

 

でも人生はその歩み方次第で、「自分をありのまま受け入れてくれる誰か」が合流してくれることがある。

そのおかげで、「自分が自分でよかった」と心底思えるようになることは、過去の浄化でもあるし、人生で最も大きな喜びのひとつだと思う。 

 

生きやすくなるための座右の書

 

この本を通して、アルテイシアさんの波乱万丈な人生を垣間見ることが出来た。


「わたしの30代後半、40代も色々起こるのかな…。メンタル持つのかな…。」と、この先の人生を少しばかり恐れる気持ちも正直ある。 

 

でもその分、心構えが出来たし、受け止め方のヒントも貰えた。 

 

だけど「ばっちこいや!」とはまだ言えないから、これからもこの本は字引きとして座右の書にしよう。

アルテイシアさんご夫婦のユーモアをお裾分けしてもらって、わたしも加齢を楽しみながら生きていきたいと思う。  

 

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<おまけ>アルテイシアさんの過去著作のお勧め

 

『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』を読むと、往年のファンとしては以前のアルテイシアさんの著作をまた読み返したくなります。
そこでしつこいけど、おまけを書いてみました。

 夫さんとの出会いの経緯が書かれた、ドラマ化もされたデビュー作。15年前に発刊された、若かりし頃のアルテイシアさんと夫さんの物語。

主演の藤原紀香と陣内が結婚した際、テレビで陣内が「お互いの前でオナラをしないのがルール」と話すのを聞いて、夫さんは「オナラのできない家は滅びる」と予言していたそう。www.amazon.co.jp

 アルテイシアさんが20代の恋愛で吐いてきた、血反吐の歴史を振り返る一冊。歴代元彼さんとの、出会いと別れの経緯が克明に書かれています。
まえがきに「傷ついても、恋愛リングに上がり続ける人のための実用書」とある通り、恋愛と仕事でもがく生き様に、わたしはめちゃくちゃ救われてました。
14年前の本であることに驚き…!www.amazon.co.jp

 熟女=JJと呼び、加齢による生きやすさを教えてくれる本。
一瞬「加齢で丸くなる」系の話かと思いきや、益々エッジが立つアルテイシアさん。

中高年期を楽しむためにも「女友達をちゃんと大事にしよう」と心底思いました。www.amazon.co.jp

 その辺の恋愛本とは一線を画す、地に足のついた恋愛講座。
世の中のモテ本に書いてあるモテテクやスタンスって、「肉食系男子を好む、肉食系女子のためのもの」が多い気がしませんか…?
「彼を追わせる」的なことをやっても、付き合ってからも駆け引きしなきゃいけないのしんどいし、普通の女子が手を出しても、策に溺れることが多い。

理想のパートナー像も、整理できる本です。www.amazon.co.jp

 めちゃくちゃ笑える、あけっぴろげな下ネタ本。
22歳の時、この本のベースとなった『もろだしガールズトーク』を読んだ時は「女の人がこんな下ネタ書ける時代って素晴らしいな…!」と心底思ったもの。

アルテイシアさんとご友人の会話も、最高に面白い。www.amazon.co.jp